研究概要 |
B6C3F1マウスの肝癌より樹立した肝癌細胞株には,高頻度に4番染色体のLOHが存在した.LOHの最小欠失領域はD4Mit37領域の2cMの範囲で,この領域は肝細胞の不死化遺伝子座(Lci)を含んだ.このLOH領域は,ヒト染色体の1p32-36に相同し,ヒト肝癌でもこの領域にLOHが存在する事から,ここに肝癌抑制遺伝子が存在すると推定されている.そこで我々は,4番染色体にLOHを有する細胞株とそうでない細胞株を用いて,mRNAの発現レベルが変化している遺伝子の同定を行う目的でdifferential display法による解析を行った.その結果,LOHを有する細胞株においてmRNAの発現量が増加しているマウス新規遺伝子A141-36のクローニングに成功した.同時に,そのヒトの相同遺伝子であるヒトA141-36をクローニングした.マウスA141-36遺伝子は,マウス肝癌の9例中7例(78%)で発現が増加していた.また,マウスA141-36遺伝子の発現は,軟寒天培地でコロニー形成能を有するマウス肝癌細胞株で増加している傾向を認めた.一方,ヒトA141-36は,約2500bpの塩基配列からなり748個のアミノ酸をコードしていた.ヒトA141-36は,マウスA141-36とidentity34%,similarity44%であった.ヒトA141-36遺伝子の組織発現は,精巣で強く発現していたが,他の組織では殆ど発現を認めなかった.ヒトA141-36遺伝子の発現は,ヒト肝癌では全例(5例中5例)で増加していた.さらに,慢性骨髄性白血病細胞株K-562,大腸癌細胞株SW480,前立腺癌細胞株PC3,DU145などでも発現亢進を認めた.従って,ヒトA141-36の発現増加は,肝癌以外の悪性腫瘍においても発症と関係する可能性が考えられた.抗ペプチド抗体を用いた免疫染色により,ヒトA141-36は核に存在する蛋白であることが判明した.現在,更に機能解析を進めている.一方,LOHを有する細胞株で発現が低下している遺伝子としてInsulin-like growth factor binding protein-related protein-1(IGFBP-rP1/IGFBP-7)を同定した.この遺伝子は,原発性肝癌においても発現低下が認められた. 肝癌細胞株では足場非依存性増殖能の強い細胞株においてIGFBP一rP1の発現低下が著明であった. IGFBP-rP1を強制発現した細胞株では,増殖速度,足場非依存性増殖能,in vivoでの腫瘍形成能の低下を認めた.またヒト肝癌もIGFBP-rP1の発現低下を認めた.これらの結果より,IGFBP-rP1の発現低下は肝癌の発生,増殖に関与していることが示唆された.
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