研究概要 |
本研究ではストレス負荷による神経細胞の形態学的変化ならびに信号伝搬機能の変化を光学計測の手法を用いて観察する計画である。昨年度は,これらの光学手法を実現するために,より取り扱いが容易である海馬スライスの培養法(オーガノティピックカルチャー)を確立した。今年度はこれらの成果をふまえ,ストレスホルモンであるコルチコイドならびにエストロゲン投与後の海馬を対象にした光学計測を実施し,報告書としてまとめた。すなわち,ラットの海馬スライスを顕微鏡のステージ上に設置された潅流槽にセットし,肝油に染色液(DiI)とホルモン(いずれも10μg/μl)を溶解しスライスのCA1上に小球(dye ball)として4時間静置した。エストロゲンは潅流液に溶解することも試みた。その後,共焦点顕微鏡により樹状突起とそれに連なるシナプス(スパイン)を撮影し,樹状突起の単位長さあたりのスパイン数(スパイン密度)を求めた。その結果コントロール条件(3.62±0.54)に比較して,コルチゾールを添加したスライス(2.30±0.32)のスパイン密度が有意に小さくなっていたが(p<0.05),エストロゲンは肝油に含ませた場合も潅流液に含ませた場合も有意な変動は示さなかった。このことから,ストレスにより誘導されるコルチゾールはその濃度が高い場合,わずか4時間でも神経組織にダメージを与えうることが示唆された。今後は,さらに詳しく検討するとともに,そのメカニズムについての研究を実施する予定である。
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