我々は、増殖因子等の前駆体活性化酵素Furinがラット胃粘膜上皮の増殖帯よりやや上部の細胞群に高発現していること、マウス胃粘膜被蓋上皮細胞由来GSM06細胞は増殖期にFurinを高発現し、増殖が停止した分化期にはFurin発現が消失し、TGFαが高発現することを見出した。 更にGSM06細胞をガストリン存在下で24時間以上培養するとガストリン受容体が高発現してくる。これらの事実から我々は粘膜上皮細胞の前駆細胞はガストリンによってFurinを発現し、Furin陽性細胞は何らかの刺激によってTGFα細胞に分化するという萌芽的伝説を立てた。 ラット胃粘膜上皮ではTGFαは胃小窩の被蓋上皮細胞で強く、腺部の壁細胞でやや強く発現していた。ところがFurinを高発現する細胞はH/K-ATPase抗体で強く染色され、壁細胞であることが分かった。Furin陽性壁細胞はTGFα陽性被蓋上皮細胞に囲まれていた。そこでEGF受容体(EGFR)の局在を調べると、Furin陽性壁細胞で高発現しており、被蓋上皮細胞によってEGFRが刺激されていると考えられた。Furin遺伝子をクローニングし、その5'端上流部分をルシフェラーゼ遺伝子に結合させた。GSM06細胞におけるルシフェラーゼ活性はTGFαとTPAで強く上昇し、EGFRシグナル伝達系によってFurin発現が制御されている可能性が示峻された。 我々が作成したガストリン過剰発現マウスの胃粘膜は肥厚し、特に胃小窩部が伸長していた。胃粘膜上皮細胞は正常のそれに比して粘液顆粒が少なく、正常胃粘膜では発現していないシアロムチンが発現していることが分かった。即ちガストリンは胃粘膜の増殖を促進し、粘膜細胞の成熟を抑制することが示された。
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