研究概要 |
生きている状態の癌細胞の表面を原子間力顕微鏡で二千倍から一万倍の倍率で観察することに成功した。5分間トリプシン処理を行い細胞表面の微絨毛を剥離し,粘着剤にてコーティングしたスライドガラス上で肺癌細胞培養株A549を24時間培養した上で,原子間力顕微鏡にて細胞表面を観察した。二千倍での観察では細胞表面に稜上の隆起が存在した。この隆起は,細胞中心部から外縁に向かって放射状に拡がるものと外縁にそって同心円上にあるものの二種類が存在した。原子間力顕微鏡で観察した同一細胞をパラホルムアルデヒドで固定し,アクチンファイバーとチュプリンを蛍光二重染色したところ,放射線状に拡がる隆起と一致してアクチンが染色された。また,同心円上の隆起は,アクチンの他に一部チュブリンが染色された。以上の観察より,これらの隆起はアクチンやチュブリンからなる細胞骨格繊維をみていることが証明された。これらの隆起は,走査型電子顕微鏡では観察できず,原子間力顕微鏡の探子が細胞表面の構造を認識するときに細胞膜を僅かに圧迫するため,細胞膜直下にある細胞骨格繊維を稜上の隆起として認識していると思われた。また,一万倍での細胞表面の経時観察ではこれらの隆起が上下運動をしていることが観察され,細胞骨格は固定されたものではなく,流動していることがわかった。さらに,A549より遊走能の低いPC3でも,同様の観察を行ったが,原子間力顕微鏡で観察できた細胞表面の微細構造には遊走能の違いによる違いを認めなかった。
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