研究概要 |
アルコールとドーパミンの縮合反応により生成するサルソリノール(Sals)を出発点とし、慢性アルコール中毒の諸症状の生じる原因を探究する上で、Salsを始めとするドーパミン由来6,7-ジヒドロキシ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン(DHTIQ)類並びにカテコール環を有しないイソキノリン群がヒト脳モノアミン酸化酵素(MAO)活性に及ぼす影響を検討した。 <1>DHTIQ群 カテコールイソキノリンはA型MAO(MAO-A)活性を抑制したが、B型MAO(MAO-B)活性には全く影響しなかった。その抑制作用については、常に(R)異性体の方が(S)異性体より強く抑制した。更に、DHTIQのこの抑制作用は、酸化によるイソキノリニウムイオンの形成或いはN_2部位のメチル化により増強されたのに対し、C_1部位の炭酸付加により完全に消失した。この観察事象は、MAO-A活性抑制の選択性並びに特異性に関しては、DHTIQのN_2部位周辺の電荷の分布が大きな要素であることを示す。 <2>カテコール環を有しないイソキノリン群 ベンゼン環を有するほとんどのイソキノリンはMAO-B活性に対する抑制作用を有していた。特定の物質がMAO-B活性の抑制作用を発揮するには疎水性部分がその分子内に必要であるという実験結果は、cDNAが示すアミノ酸配列より推測されるMAO-Bの立体構造において、その活性中心には疎水性のポケットが存在するという予測と合致した。 このように、体外より取り込まれるアルコールと神経伝達物質ドーパミンとの縮合により脳内で生じる化学物質が分子修飾を受け、MAO抑制作用が発揮されることになり、その結果、脳内カテコールアミン代謝が影響され、ひいては慢性アルコール中毒の諸症状を惹起或いは増悪する可能性が示されたものと考える。
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