研究概要 |
これまで、尿中に落下した腎尿細管細胞を培養系に移し、培養された各種の細胞系を利用して細胞内での遺伝子メッセージの発現や、たんぱく質の発現などを検討してきた。今回は、この仕事の上に立ち、さらに尿中に多数浮遊している事が推測されている破砕細胞膜片の小胞体構造が、研究対象となり得るかどうかに関しての検討を進めた。 まず、正常ヒト尿を通常の方法で採取し、それらを摂氏4度にて、通常遠心機を用いて2000回転で15分遠心し、その上清を分離後、超遠心10万gにて30分施行した。その上清は破棄し、残ったペレットをホモジナイザーを用いて粉砕し、アイソレーションバッファーとしてD-mannnitol、EGTA、Trisバッファーph7.4に再度懸濁し、Mgを用いて細胞膜分画だけを再度同様の超遠心にて沈殿させた。 当初、文献(BBA647:169-176,1981とAm J Physiol F61-68,1996)に記載された方法を用いて、通常の組織片からの小胞の分離を想定し、初期遠心後の上清をポリトロンにより破砕し、細胞膜成分の中でも、サイズの大きい分画の処理を進めてみたが、残念ながら超遠心後の膜成分の回収が著しく悪く、最終的なMg沈澱処理後の小胞体の回収はほとんどゼロの状況で、そのままでは研究対象として扱えない事が明らかとなった。このため、方法論を再検討した結果、上述のように細胞膜のポリトロンによる破砕を省略し、生成を進めた結果、最終産物に細胞膜成分と思われる小胞体構造を得る事が出来た。 さらにこの方法を簡略化し、小胞体の回収率を上げるために、当初の採取尿に直接Mgを加える手法を導入したところ、回収率は、最高となった。しかしながら、実際に回収された小胞体ペレットは、全尿100mlから、蛋白成分量にしても1mgにはほとんど到達せず、残念ながら今回の検討結果からは、高度に感受性のある抗体などで、存在する蛋白を同定する場合には利用可能と考えられるものの、腎組織より直接精製した小胞体で行われる膜輸送機能の検討に供するためには、大量の採尿が必要と考えられた。今後、微小サンプルでの輸送機能検討方法の確立が前提と考えられる。
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