研究概要 |
低分子ガス情報伝達物質であるnitric oxide(NO),carbon monoxide(CO)は,生体内で非常に不安定であり,特に移植臓器内での動態解析は困難であった。我々はラット肝移植において,近赤外分光法によりNO代謝産物であるnitrosyl-Hbを測定し,虚血再灌流障害,拒絶反応における臓器内NO酸素代謝を測定した。同系肝移植において虚血再灌流,特に冷保存再潅流では,活性化したKupffer細胞,マクロファージからNOが産生される可能性を検討したところ,UW液による冷保存24時間群のnitrosyl-Hbレベルが再灌流後2時間より著明に上昇し,3日以降正常に復した。次いで拒絶反応におけるNOの動態を同種移植を用いて検討した。無治療群では3日目の急性拒絶反応早期よりnitrosyl-Hbが上昇し,次いでoxidized-Cyt.aa3,oxy-Hbの値が有意な低値を示した。しかしデオキシスパーガリン治療群ではその変化は抑制された。以上の近赤外分光データと病理組織所見とを対比して検討したところ、門脈領域への単核細胞の浸潤が始まる移植移3日目からnitrosyl-Hbレベルが上昇し,この浸潤が実質に波及する6日目にはoxidized-Cyt.aa3が低下し,肝細胞壊死の著明となる8日目に,はoxy-Hbが有意に低下した。すなわち移植肝組織内nitrosyl-Hbレベルの推移は単核細胞浸潤の程度を,oxidized-Cyt.aa3,oxy-Hbレベルは拒絶にともなう肝実質組織障害の程度をよく反映し,拒絶反応のモニタリングとして有用と考えられた。更に我々は本法が含気臓器である肺に応用可能であることを証明し,測定プローベの改良により大型動物を用いた経肋骨体外測定システムを開発した。
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