研究概要 |
膵ラ島の再生現象を成人でとらえる実験モデルを作成することは困難であるとされてきた.我々は以下のマウス膵切除モデルとラット不完全水管結紮モデル(surgical wrapping法)を確立し,これらのモデルを用いて成人膵ラ島再生の分子機序を明らかにした.特に,導管系幹細胞から膵ラ島B細胞への分化マーカーであるPDX-1に着目した.マウス膵切除後再生モデルにおいてベータセルリン(0.1mg/Kg)を2週間連続皮下投与したところ,残膵のインスリン含量が有意に増加し,同時にPDX-1遺伝子の発現増強が見られた.免疫染色法にてPDX-1発現細胞の局在をみると,主として既存のラ島内のB細胞にみとめられ,PDX-1は,内分泌前駆細胞からの新生ではなく,主として既存のB細胞におけるインスリン遺伝子の転写亢進に関与していると考えられた.一方,ラット不完全膵管結紮モデルにおいてはインスリン含量の経時的増加とともに,既存ラ島面積の有意の増加(14日間で約2倍)と小ラ島の新生が認められた.またPDX-1発現細胞も既存ラ島内B細胞のみならず,小ラ島内と拡張膵管の一部およびその近傍にも数多く認められた.これらの既存ラ島以外にみられるPDX-1陽性細胞数の増加を経時的に見るとインスリン陽性細胞数の増加に先駆けてみられた.したがって,ラット不完全膵管結紮モデルにおける膵ラ島の再生増殖は,既存ラ島の増殖とともに,内分泌前駆細胞からの分化によるものの二つの機序によることが示唆された.
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