研究概要 |
Cerebral palsyには,妊娠中または分娩中の胎児脳虚血や脳低酸素症に起因するものがある.しかし,その神経免疫学的,神経生化学的な病態解明が総合的には行われていない.胎児,新生児の体温管理は経験的に行われてきたが,虚血・低酸素による障害脳を有する新生児の体温管理の指針はなく,軽微低体温(35〜36℃)が予後を改善する可能性がある. 本研究では,母ラットを飽水クロラールで全身麻酔後,在胎22週の胎仔を臍帯動静脈が付いた状態で取り出し,胎仔の頭部をステレオタキシックフレームに固定した.母体直腸温と胎仔咽頭温(脳温を反映)をモニターして,それぞれ37℃,36℃を目標に調節した.Microdialysisプローブを胎仔脳線条体に挿入し,マイクロシリンジポンプに接続して4μ1/分の速度で生理食塩水を潅流した.30分以上安定化させた後に対照値となる脳透析液を10分毎に3本採取後,10分間胎仔の臍帯動静脈を結紮(胎仔仮死モデル)した.その後,臍帯動静脈を再開通させ,120分後まで潅流液を採取した後に,胎仔脳を摘出して一酸化窒素合成酵素(NOS)の解析まで-80℃に保存した. 結果:胎仔線条体におけるグルタミン酸(対照値3.02±0.96μMo1/1,平均値±SD,n=7)は低酸素10分間(2.00±0.68μMo1/1)再潅流・再酸素化(10分間毎)30分後まで,それぞれ1.17±0.60,1.25±0.67,1.75±0.85μMo1/1と対照値に比べて有意な減少を示し,以後も含めて120分間いずれの時間帯も有意な上昇はみられなかった.一方,NO_2+NO_3(対照値6.61±1.74μMo1/1,n=7)は低酸素(10分間)で6.79±1.21μMo1/1であり,以後も有意な変化はなかった.mRNAの解析による神経型,および誘導型のNOSの発現はいずれも確認された. 以上の結果より胎仔脳では,短時間の低酸素ではNOSの発現はあっても,NOの産生は増加せず,興奮性毒性を示すグルタミン酸の増加もみられなかった.このことは,陣痛や娩出時の胎児の脳虚血・低酸素に対する耐性機構を説明するものである.
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