研究概要 |
顎関節症の主要因である咬合異常と主症状である顎関節部の疼痛の関連性を追求するために、ラットの下顎を後方偏位させた際の下顎頭周囲組織における神経組織の変化について、すべての神経線維を認識することができるprotein geneproduct 9.5(PGP9.5),および知覚神経の伝達物質の一つであるcalcitonin gene-related peptide(CGRP)を用いた免疫組織化学的手法により検討した。 実験方法は,ラット下顎切歯部に斜面板を歯科用接着材にて装着し、下顎後退位動物を作成して経時的に潅流固定、脱灰し、顎関節凍結切片を作成した。この資料上で、顎関節周囲の神経分布をPGP9.5とCGRPの抗体を用いた免疫組織化学的手法により検討した。なお,下顎位の後方移動についてはX-ray写真により確認した。 咬合斜面板装着後1日目では、顎関節周囲組織のPGP9.5陽性神経が著明に減少した。しかし、装置装着後7日目では、装置装着後1日目に比べPGP9.5陽性を示す神経線維の数が増加した。特に前方部滑膜組織を含む円板結合組織で著明であった。このことは、咬合斜面板の装着により装着後1日では周囲組織の傷害と共に神経線維の変性が優勢な時期で、7日目になると外力に対して適応するようになり、それに伴い神経線維の再生が行われることを意味する。また、装置装着後7日目でも、後方部では神経線維の再生がほとんど見られなかった。以上のことから顎関節に分布する神経線維は圧迫より伸展に対して早い再生現象を示すようである。この結果、咬合異常は顎関節周囲の神経線維に傷害を与えることが認められた。 一方、CGRP抗体を用いた免疫染色は、装置装着後1日目及び7日目においてCGRP陽性神経はほとんど観察されなかったことから、神経ペプチド含有神経の再生は通常の神経線維より遅れることを意味している。
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