研究概要 |
悪性腫瘍の摘出手術によって顎欠損を生じた患者に装着された顎義歯の発音機能に対する客観的な評価としては,一般に語音明瞭度試験が用いられているが,同試験で患者の不満を十分に評価することは困難な場合が多い.顎欠損による構音障害患者の発音機能の不満に対する新たな客観的評価方法があれば顎義歯を評価する上で有用である.本研究は,発語時の精神的ストレスを指標とした顎欠損患者の構音障害に対する不満の新しい評価方法を考案し,その方法の客観性を検討することを目的とした. 顎義歯を装着する上顎骨部分欠損患者8名を被険者とした.被験者はいずれも,語音明瞭度試験と患者自身による発語時のストレス評価(VAS)の両評価法によって,顎義歯の装着により構音障害に対する改善が認められた者である. 発語明瞭度試験と同時にGSR計測装置を用いて発語時における皮膚電気抵抗値の変化を測定した.皮膚電気抵抗値の変化の評価は,発語開始後の発汗による皮膚電気抵抗値の低下率(発語前の抵抗値-発語後の抵抗値/発語前の抵抗値)を求め,それを発語時の精神的ストレスの指標として行った.測定は顎義歯装着状態および非装着状態で行い,両者の間における皮膚電気抵抗値の低下率を比較した. 5名の被験者において,義歯装着状態における発語による皮膚電気抵抗値の低下準(平均値:14.4%)は,義歯装着状態のそれ(平均値:20.7%)よりも小さかった.しかしながら,残りの3名においては,発語による皮膚電気抵抗値の低下率は義歯の装着により上昇す今傾向を示した.これは,発語以外の要素(試験時の緊張等)が皮膚電気抵抗値の変化に関与したことが原因と考えられる. これらの結果から,GSR計測装置を用いた発語時の皮膚電気抵抗値の変化の測定は,測定時の患者の精神の安定に十分配慮すれば,顎欠損患者の構音障害に対する不満の評価方法となりうる可能性が示唆された.
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