研究概要 |
アルツハイマー型老年痴呆の危険因子の一つに歯の喪失があげられ,歯の喪失による咀嚼障害は全身機能の低下や高次脳機能障害に関連があるとする疫学的報告はなされているが,これらを証明する実験的研究は少ないのが現状である.本研究では咬合支持の喪失とアルツハイマー型老年痴呆との関連を明らかにすることを目的とした.前年度ではマウスにおける臼歯の喪失が空間記憶学習能の低下と脳細胞に変性を生じさせることを明らかにした.本年度は,新たに咬合支持の喪失と加齢による観点から行動学的,組織学的に比較検討した.当初計画の疫学調査は基礎的知見のデータ収集後に行うこととし,本年度においても見送った. 生後12週齢(成熟群)および30週齢(老齢群)のddY系雄性マウスを上顎両側臼歯,下顎両側臼歯,上下顎両側臼歯を抜歯した実験3群と非抜歯の対照群を加えて各4群を設定した.抜歯後1週,7週,20週に8方向放射状迷路実験を行い,実験終了後,各実験群と対照群のマウスから脳を抽出し,海馬錐体神経細胞数を計測した. その結果,成熟,老齢群ともに対照群に比較した実験群の空間記憶学習脳には低下を認め,加齢による影響よりもむしろ臼歯の喪失による影響が大きかったものと推察された.一方,脳細胞のレベルでは臼歯の喪失だけでなく,加齢現象も影響することが明らかとなり,なかでも上顎臼歯の喪失は空間記憶学習能の低下のみならず,脳細胞の変性・脱落に最も強く反映したと推察された. 以上より,咬合支持の喪失はアルツハイマー型老年痴呆の主要病態にあげられる学習記憶障害に影響を及ぼすことが明らかとなった.しかし,その作用機序に関してはなお不明な点が多く存在することから,今後の検討課題となった.
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