研究概要 |
ビニル位炭素原子上での立体化学の反転を伴う求核置換反応、即ち、ビニル位炭素原子上でのS_N2型求核置換反応は全く知られていなかったが、我々はビニルヨーダンのハロゲン化アンモニウムによる求核置換反応が、立体化学の完全な反転を伴って進行することを見出しつつある。そこで、本反応を詳細に検討し、ビニル位炭素原子上でのS_N2型反応機構で進行していることを明らかにするため、研究を実施した。 E-ビニルヨーダンを基本化合物として選び、完全な立体反転を伴うハロゲン化アンモニウム(n-Bu_4NX:X=Cl,Br,I)による求核置換反応の速度論的解析を実施した。すなわち、ハロゲン化アンモニウムを大過剰使用する偽一次反応条件下、反応速度を測定し、反応次数を決定して、2分子求核置換反応であることを証明した。反応速度の温度依存生を調べ、求核置換反応の活性化エンタルピーおよび活性化エントロピーを測定した。得られた結果をビニル位炭素原子上でのS_N1型求核置換反応における値と比較し、S_N2型求核置換反応であることを証明した。脱離基である3価ヨウ素置換基の芳香環上に、種々の置換基を導入してその電子的効果を検討し、Hammettの置換基定数との相関を調べて反応定数(ρ値)を求めた。我々は既にビニルヨーダンのSNl型求核置換反応における反応定数(ρ値)を決定しており、得られた値を比較検討した。ビニル位炭素原子上でのE-ビニルヨーダンのSN2型求核置換反応においては、攻撃する求核試剤と置換基Rとの間の立体障害が反応速度を支配すると考えられる。そこでR基として、n-,iso-,sec-,tert-ブチル基を導入してその反応速度を調べ、立体的効果を検討した。β位重水素同位体効果および溶媒効果も検討した。
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