研究概要 |
我々は、最近新規な胃flippaseが胃プロトンポンプと共存することを発見した(J.Biol.Chem,272:10429-10434,1997)。薬物・アミノ酸・糖・イオンを運ぶトランスポータやチャネルは多数発見され、その研究は活発におこなわれている。しかし、生体膜成分のりん脂質を運ぶflippaseについては、研究はこれからで、研究分野としても萌芽的レベルにある。このFlippaseの役割として、1)ベシクルの融合に関わる可能性、2)リン脂質を分泌し、細胞防御に関わる可能性を検討した。これまでの研究から蛍光でラベルした、phosphatidylcholine(PC),phosphatidylserine(P),phosphatidylethanolamine(PE)を使った研究から、このflippaseはPC、PS、PEといった広範囲なリン脂質を、ATP依存的にベシクル2分子膜の外層(細胞質側)より内層(細胞外側)あるいはベシクル内部に輸送することがわかった。ただし、この方法では、蛍光NBD-ceramideがほとんど外層にしか存在しない条件なので、内在性のPC、PS、PEが本当に輸送されているか疑わしい。本研究では、蛍光プローブを使わないHPLCによるリン脂質の定量を行い、正確を期したところ、内在性のこれらリン脂質が輸送されることが明らかになった。次にリン脂質がベシクル内管腔にまで分泌されているのか、内膜までへの移動にとどまるか(分泌なし)を検討した。準弾性光散乱法により、胃ベシクルのサイズの減少がおきているかどうかを調べた。その結果粒子経の減少が起きていることが明確になり、リン脂質の分泌がおきていると判断できた。従って、管腔表面へのflippaseによるリン脂質の分泌作用が考えられる。即ち、分泌されたリン脂質は疎水基を外側に配向して細胞の表面を覆って、2分子膜の外側に水をはじく単分子層を形成し(3分子膜の形成)、胃酸から細胞を自己防衛する。
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