研究概要 |
1.我々は,全染色体の染色分体解離が高頻度(5%以上)に認められる形質が家系内で優性遺伝し,ホモ接合の個体では多発性奇形(IUGR,小頭,脳奇形など)と小児腫瘍(ウィルムス腫瘍)ならびに多彩な染色体異数性のモザイクを伴う2家系を報告した(Kajii et al.,Amer J Med Genet,1998).ホモ接合の患児では70%以上もの細胞で全染色体の染色分体が著しく解離する.我々はこの現象をとくにTotal Premature Chromatid Separation(Total PCS:早期全染色分体分離)と名付けた. 2.3家系のヘテロ接合保因者7名とホモ接合2症例の末梢血培養リンパ球およびEBウィルス媒介で樹立して得たリンパ芽球細胞株(LCL)を用いてtotal PCSの分子細胞遺伝学的性状を解析し,次の知見を得た:(1)Total PCSを示す染色分体のセントロメア域はCバンド,αサテライトDNA,Cd-バンド(活性のある動原体を特異的に検出),セントロメア抗原蛋白はすべて陽性.(2)Total PCSの出現頻度は標本作製過程の低張処理条件に大きく左右される.(3)Total PCSの基因は,セントロメアの機能不全というよりは姉妹染色分体間の結合様式に異変があることを示唆する知見も得た. 3.貧精子症を伴うtotal PCS保因者の精子と培養リンパ球を試料としたFISH解析により,ヘテロ接合個体にあっても低頻度ながら(健常者の3〜8倍頻度)の異数性細胞の産出があることを確認した. 4.誌上発表したtotal PCSの2症例以外に,臨床症状の類似した新たな1例と文献から検索した4例について同様の染色体所見を得た.これら7症例のうち6例にウィルムス腫瘍の発生を認めたことから,total PCSは染色体の不安定性を起因とする新たな高発癌性の遺伝形質であることを確定し得た. 5.ホモ接合2例,保因者8例,家系内の健常者も加えて計20株のLCLsを樹立し冷凍保存できた.
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