研究概要 |
本年度は,中国西部における研究,チベット高原の東北部の蘭州付近においてレス・古土壌の高精度解析をおこなった.その結果を,同じ地域で並行してすでに調査されている湖成堆積物,氷河地形・河川地形とそれらの堆積物などの調査結果データと対比し,モンスーン変動の動態(とくに降水量変動),および,それとヒマラヤ・チベット山塊の隆起との関係をも解明した.とくに,レスの堆積が盛んな寒冷期に着目し,最終氷期から完新世にかけての寒冷化・乾燥化の程度の比較した 以下に結果を示す. ヒマラヤ/チベット高原以東のいくつかの東アジアの湖沼・レス堆積物についてみると,北緯35〜45度以北ではヤンガードリアスやハインリッヒイベントなどの現象が認められるが,完新世のヒプシサーマル期は明瞭ではない.これに対して,北緯35〜45度以南では逆に前者は明瞭ではなく後者が明瞭に現われる.しかも,偏西風によって日本列島に降下した風成塵変動から,ベーリング期におけるチベット山塊周辺の温暖湿潤化(植生の前進)はグリーンランド氷床コアにおける温暖化に先行している可能性がある. このチベット高原周辺の乾湿変動を引き起こしたものはモンスーン変動であり,チベット高原以東の気候変動が大気変動に由来し,かつ北大西洋を発現地とする変動に先行する可能性がある.これは,ヒマラヤ/チベット山塊の間欠的な隆起上昇がグローバルな環境変動のトリガーである可能性を暗示する.
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