研究概要 |
この研究は,歴史教育をグローバルな視野に立って改善するための基礎研究である。特に,日本とその周辺の歴史教育の現状と今後の課題を整理した。その結果,日本・韓国・台湾はともに歴史的思考力を育成する教育が求められつつも十分でない現状があること。歴史教育内容のあり方について,自国家に固定された視点でなく,「身近な地域」と「東アジア」という他の2つの視点の必要性が自覚されつつも十分でなく今後の課題であること。またそれは,今後,特に深化が望まれる歴史研究上の課題でもあることが確認された。 この研究の過程で,日本の歴史教育研究の深化のために今後注目を要する3つの動きがあることが明らかになった。1つは,台湾の歴史教育である。台湾は,大陸からの自立(独立)に政治的力点を移しつつあるが,歴史教育にあって,その動きは,新たな自国史とも言うべき「台湾史」研究の活性化とその教育への活用が期待され,進められつつある。この新たな自国史がどのような「自国史」として描かれるのか,アジア史的広がりをもって描かれるのか注目しなければならない。2つは,韓国の歴史教育である。韓国は,歴史的思考力を評価する評価方法の開発を進めてる。パフォーマンス法・ポートフォリオ法などによる評価とともに,いわゆる学力試験の論述型評価方法における客観性の確立という歴史教育でこれまで困難とされた部分に踏み込んだ実験的試みが進められつつある。この試みは,思考力育成を重視する場合の最重要解決課題である。3つは,ロシア極東地域の動向である。大陸からの分離を意識する台湾と違って,ロシアという国家内部の地域史としての極東地域の主体性の確保というところに研究視点が置かれつつある。地域史と国家史の関係性が問われつつある。以上のような研究視点に立脚した研究者の相互交流は,日本を含む東アジア地域の歴史教育の改善のために今後特に必要とされよう。
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