研究概要 |
今年度は本研究のまとめとして,イメージスキーマを利用した形容詞の辞書記述,特に外国人学習者向けの記述を試みるために,理論的に検討すべき事項の検討を行った。その一つは,次元形容詞の空間的用法から非空間的用法への用法上の拡張が日本語独自のものであるのか,それとも人間の認知にとって言語を越えて一般的な傾向を示すものの一環として存在するのかという点である。このような関心はSweetser(1990)などに示された方向と軌を一にするものである。それは昨年度の成果をまとめた『次元形容詞の空間的用法と非空間的用法』 (2000)と題した論文でも指摘した点であるが,形容詞の用法の拡張の背景には,名詞で示される対象に対する把握の仕方つまりイメージがどのようなものかということが大きく係わっており,そこに普遍的な傾向が見られるならば,個々の事例を学習する必要はなく,一般的な原則さえ見出せれば十分ということになる。例えば,試行的に中国語について次元形容詞の一部の非空間的用法の比較を行ったが空間から時間への拡張は類似している。もしそうならば,名詞の意味記述をする場合,次元形容詞との共起を念頭に置くならば,空間量的なイメージを持つのはどのような点においてなのかが明確になるような記述法が必要になる。そこで今年度はPustejovsky(1995)などで提案されているいわゆる特質構造に基づく記述法の可能性について検討を行った。その成果は『メトニミーの成立条件』 (2001)としてまとめた。そこでは比喩的な拡張を可能にする意味要素の記述法として特質構造による記述が有効であることはわかったが,拡張の様相の全体を捉えるには不十分な点もあることが確認された。しかし,イメージスキーマとして捉えうる要素も記述的に捉えることが可能であることが示された。
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