研究概要 |
混合原子価金属錯体は,特有の電子的,光学的性質を示すため,これを用いてナノ構造体を構築すれば,多彩な電子機能や光学機能を示す高性能ナノ材料が得られるものと期待される. 本研究は,安定に取り扱うことが可能な二核ルテニウム混合原子価錯体を合成し,この錯体の対カチオンとして自己組織性を有する有機アンモニウムを導入し,ナノ構造を制御することを目的とした.二核ルテニウム混合原子価錯体のDMF溶液を種々の有機溶媒に加えると,ナノファイバーやナノシート,nano-beansなど溶媒に依存して多様なモルフォロジーの構造体が形成されることを明らかにした.また,これらのナノ構造形成において,対カチオンが重要な役割を果たすことが示された. また,永久双極子を導入した二官能性配位子を亜鉛ポルフィリン錯体の軸配位子として導入し,電圧印加によって軸配位子が回転して分極反転し得る一次元ポルフィリン金属錯体の開発について検討した.室温では、dielectric-likeな誘電応答しか観測されなかったが、393Kまで加熱すると強誘電体に特徴的な誘電応答ヒステリシスが観測された。残留分極の値は、既存の強誘電体に比べて小さいものの、再現性良く強誘電性を発現することを見出した.比較実験として,亜鉛ポルフィリン錯体のみ,または亜鉛ポルフィリン錯体と分極を持たない配位子の組み合わせについても同様の実験を行った.その結果,いずれにおいても強誘電性を示す結果は得られなかった. このことから,架橋配位子に導入した永久双極子が強誘電応答に必要であることが明らかとなった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初,二核ルテニウム混合原子価錯体を脂質分子によって被覆し,溶媒に分散可能な錯体ナノファイバーを開発することを目的とした.ルテニウム錯体の対カチオンとして,比較的シンプルなエチルアンモニウムやアラニン誘導体を用いた場合においても,非常に発達したナノファイバーが形成されることを見出した.さらに,再現性良く強誘電ヒステリシスを示す新しい亜鉛ポルフィリン錯体の開発にも成功し,これは交付申請書よりも国際的に波及効果の高い研究に結びつく可能性が極めて高い.このことより、当初の計画以上に進展していると判断できる.
|
今後の研究の推進方策 |
二核ルテニワム混合原子価錯体による様々なナノ構造体の構築に成功したが,その構造に依存した錯体の電子物性を評価する必要がある.最近,ナノ構造に依存して原子価間電荷移動吸収帯がシフトすることを見出しており,今後,ナノ集積構造との相関を明らかにする.
|