研究概要 |
シロアリは社会性昆虫の一大グループをなすが,その進化様式については未だ疑問の残ることが多い.特に不妊カーストである,ワーカーカーストがいかにして進化したかについては議論のあるところである,本研究課題では,日本に分布している数種類のシロアリ種を用いて,それらのカースト分化経路を比較し,更に各系統でどのように繁殖カーストと不妊カーストが分化しているのかを,分子生物学的手法および生理学的手法を用いて解析し,各種で得られた知見を比較することにより,ワーカーへの分化機構の進化過程を探る,というものである.(1)ミトコンドリアゲノムを用いたシロアリ種間の系統関係の推定, 次世代シーケンス技術を用いた解析により,従来のものよりも詳細かつ正確な系統関係が得られつつあり,現在論文執筆虫である.これにより,より正確な進化的議論を行うことが可能となり,将来の研究の展望も開けた, (2)兵隊比率の歪みと性との関連を探る. これまでのシロアリのカーストに関わる文献を精査し,また入手可能なシロアリでの形態学的観察を行った結果,性によって兵隊の比率に偏りのある種では,もともと雌雄の間にサイズの多型がある種が多い傾向があることが明らかとなった,そのため,従来あった性によるサイズ差と兵隊に特化した際の適応的なサイズとの関連から,どちらかの性に偏るのではないかという,新たな仮説を提唱するに至った. (3)Psammotermes hybostomaのカースト分化システムの解明により,本種は擬職蟻と真のワーカーを併せ持つ,進化的に特殊な位置にいるシロアリであることが判明した.
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