研究概要 |
深海産イガイ類は世界各地の熱水噴出域や湧水域,海底に沈んだ動植物の遺骸など,様々な還元環境に優占する分類群である.またその共生現象は多様で,硫黄細菌,メタン酸化細菌,従属栄養細菌などを共生者とし,これらの細菌を細胞外に共生する場合も細胞内に共生する場合も存在する.先行研究によって,本グループは共生細菌を有さない浅海産のイガイ類から進化したこと,またその進化過程において,海底に沈んだ動植物の遺骸が形成する還元環境が重要な役割を担ったことが推定されている.このような特徴から,深海イガイ類は化学合成環境に出現する分類群の中で,最も研究の進められているグループであるしかしながら,その進化史についてはいまだ十分に理解されていない.そこで本研究では数多くの深海産イガイ類の核およびミトコンドリアから計5つの遺伝子座を用いて包括的な系統解析を実施した.また複数の化石記録を用いて,分子年代推定のキャリブレーションを実施した.その結果,最も大規模な種分化が起こったのは約4千万年から3千万年前の間であり,この大規模な種分化の後でメタン酸化細菌の獲得と共生細菌の細胞内への取り込み(細胞内共生システムの確立)が起こったことを明らかにした.従って,共生者の獲得や共生様式の進化が共生イガイ類の爆発的な分化へと繋がったのではないことを明らかにした.またメタン酸化細菌および細胞内共生様式の獲得後,種分化の速度が高まっていることを示した.
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