研究概要 |
近年,深部体温上昇に伴う換気亢進反応により動脈血二酸化炭素分圧が低下し,この分圧低下が暑熱下での脳血流量低下に関与することが示唆された.過度な脳血流量低下は失神を招くため,この換気亢進による脳血流量低下が熱中症発生に関係している可能性が考えられる.しかしこの反応については十分に明らかでなく,特に女性の反応については不明な点が多い.これまでの研究では,運動時の体温上昇時の換気亢進反応は自転車運動時でのみ検討されており,異なる運動,例えばランニング時の反応は全く検討されてこなかった.さらに,ランニング時の体温上昇に伴う換気亢進反応が,男性と女性で異なるか,さらには有酸素能力と関係するかは明らかでない.今年度は上記の不明な点を明らかにするため実験を行った.被験者は普段ランニングを定期的に行っている男女であった.気温32℃,湿度40%に設定した環境制御室下で,60%VO2max強度のランニングを45分間行った.深部体温と換気量の回帰直線の傾きで評価される体温上昇時の換気亢進反応は,これまでに評価されている先行研究での自転車運動時のそれと同様であった.また,ランニング時の体温上昇時の換気亢進反応は男女間で違いは見られなかった.しかし,運動時の絶対的運動強度,すなわち代謝量は男性より女性の方が低いことから,体温上昇時の過換気によって低下する動脈血二酸化炭素分圧,さらに脳血流量低下は男性より女性で大きくなる可能性が考えられる.さらに,男女いずれにおいても,ランニング時の体温上昇時の換気亢進反応はVO2maxとの有意な相関関係は見られず,これは自転車運動時の知見とは異なるものであった(自転車運動時の体温上昇時の換気亢進反応は,VO2maxと有意な相関関係が見られている).
|