研究概要 |
社会的関係の構築メカニズムに対し数理的な観点から解明を行うのが本研究の課題であり,当該年度は結婚,すなわち婚姻関係にスポットをあて,特定の設定の下で様々なマッチングについてそれらが成立(均衡)するような条件の分析を行った. 具体的な設定は以下のとおりである.永遠に生きる個人が無限に存在するような結婚市場を考える,個人たちは各時点において一定の確率で他の個人に出会いと仮定する.個人は高生産性タイプと低生産性タイプのどちらかに分類され,自身の利得は自身のタイプのみならず,マッチした相手のタイプにも依存する.ゆえに,出会った相手がどのように「見える」かによって各個人の態度(反応)は異なってくる.そこで,個人が他の個人と出会った際に受け取る相手の生産性の情報にノイズが存在し,一定の確率で逆のタイプであると伝えてくると仮定する.これが本研究の主眼となる仮定である. 既存の文献においても同様のモデルが数多く存在するが,出会った相手のタイプに対し不確実性ないしは情報の非対称性が存在するケースを取扱う研究は他に類を見ない.しかしながら,本研究で想定するケースは現実においても少なからず起こりうる状況であり,現実の結婚市場における不確実な状況を描写する新たなモデルの一つとして有用であると考える. 本研究の成果としては,非自明な均衡(少なくとも1タイプの個人が正確率で他の個人を受け入れているような均衡)の存在性の証明及び各戦略プロファイルの均衡条件の導出である.また,存在性の証明を通して,すべての個人は高生産性と見られる個人を必ず受け入れること,さらには,各個人が確率1で行動する純粋戦略均衡が存在しない場合があることを示した.既存のモデルでは純粋戦略によって十分に均衡の存在性が示されるため,その意味では本研究は新たな可能性を提案したといえる.
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