研究概要 |
人口減少社会を迎えた日本において,住民と行政が協働して地域づくりに取り組んでいくことが求められている。しかし,協働における対等性という枠組みには,検討の余地が残されている。住民と行政が対等であるとする協働の定義づけやルールをめぐって,行政学や地方自治学の論者から批判がある。これらを受け止めて,本研究は,社会教育学の視角から,協働論の転換を図ろうとした。とりわけ,地域社会のなかで,住民が展開している学習実践に焦点をあてて,住民の学習実践が蓄積されていく過程に対等性が構築される可能性を展望した。 本研究では,住民と行政の利害が一致しがたい地域計画づくりの典型例として,学校統廃合の計画検討過程を中心的に調査した。調査した事例は,主に,北海道別海町,北海道恵山町(現・函館市),島根県益田市,岡山県岡山市の4自治体のなかで,近年,実際に進められた学校統廃合の計画検討過程である。調査した内容は,主に,学校統廃合の計画検討過程における住民と行政のあいだでの話し合いの過程である。調査方法は,計画対象地区における実地踏査,計画検討過程に関する資料収集およびその過程に関わった者に対する聞き取りである。主として,収集した資料に基づいて過程を明らかにした。十分な資料が残されていなかった場合には,聞き取り調査で得られたデータを参考にした。 結果として,住民と行政のあいだで,情報の限定的提供や自発的収集の構図が指摘された。そのなかで,対抗する情報を収集したり創造したりする実践がみられた。また,両者の異なる目的の共通部分を見出していく過程がみられた。これらの知見に基づいて,社会教育学における協働論を転換する方向性として,天秤のように支点と作用点の固定化された対等性論から脱却したうえで,住民と行政が可変的な均衡性を保ちながら共振する関係性を構想することが結論づけられた。
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