研究概要 |
宇宙の基本的な構成要素である銀河は,誕生/成長/進化を経験して変遷してきたが,宇宙空間の物質もそれに伴い劇的に移り変わっていった.宇宙は高温・高密度状態のビッグバンで開闢し,急激な膨張により温度と密度が下がり,約38万年後にはバラバラの電離状態にあった陽子と電子が結合した中性水素期に入る.暗黒時代と呼ばれる中性水素主体で,光る天体が無かった時代は,2~3億年後から誕生し始めたと考えられる初代星・初代銀河により変貌を開始する.初代天体からの電離放射を浴び,中性水素が再び電離されるためである.その後,宇宙の至る所で形成された数多くの初代天体により,宇宙空間全体が大規模に電離される.この太古の宇宙における最大の変転を「宇宙再電離」と呼ぶが,それがいつ・どのように起こったのか・そして,何が起こしたのか,は未だ謎に包まれており,現代科学の大きな壁として人類の前に立ちはだかっている.宇宙再電離における重要な未解決問題の中に「宇宙が電離可能であったか」というものがある.初期宇宙に存在する中性水素ガスは銀河からの電離光子によって電離されるが,銀河からの電離光子の脱出は遠方銀河からのガスアウトフローによって高められると予想されているため,宇宙の電離可能性に密接に関わる物理現象である。遠方銀河の速度構造を調べるには微弱な輝線の検出を要するが、「重力レンズ効果」と「補償光学系」の2つの増光機構を組み合わせた観測手法を考案し,すばる望遠鏡を用いて赤方偏移 4の遠方銀河アウトフローを調べた.その結果,その銀河からは高速度のアウトフローが起こっている事が分かり,遠方宇宙の数々の軽い銀河は効率的にガスを吹き飛ばし,宇宙の再電離に寄与している可能性を示唆した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでにすばる望遠鏡広視野装置Suprime-Camを用いて赤方偏移7.3のライマンα輝線銀河探査を行ってきたが,まだ探査視野が狭く検出できた銀河の個数が少ないため,その時代における中性水素残存量の増加の決定的な証拠を得るには至っていない.そこで,今後はすばる望遠鏡次期広視野装置HyperSuprime-Camを用いてより広い探査体積でライマンα輝線銀河を探査し,より不定性の小さな銀河個数密度を求めていく.
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