研究概要 |
PRMT1(protein arginine methyltransferase 1)はS-アデノシルメチオニンをメチル基供与体として、タンパク質のアルギニン残基にメチル基を転移する酵素である。先行研究において、当研究グループはPRMT1が転写因子FOXO1をメチル化することを明らかにした。このメチル化はFOXO1のAktリン酸化コンセンサス配列(RxRxxS/T、xは任意のアミノ酸)内の2ヶ所のアルギニン残基に起こり、Aktによるリン酸化を阻害する(Yamagata, K. et al. Mol.cell 2008)。 私は、PRMT1がRxRモチーフを標的として基質をメチル化すること、そしてこの配列がAktコンセンサス配列中に含まれる点に着目し、このPRMT1によるメチル化制御がRxRxxS/T配列を有する他のAkt基質タンパク質にも起こりうるのではないかと考えた。この可能性を検証した結果、アポトーシス制御因子であるBADがPRMT1によりアルギニンメチル化修飾を受けることが明らかになった。BADはミトコンドリア膜上で機能するアポトーシス促進因子であるが、通常はAktによってリン酸化を受け、細胞内局在がミトコンドリアから細胞質へと移行し、その機能が抑制されている。 私は、PRMT1がBADのAktリン酸化コンセンサス配列中の2カ所のアルギニン残基をメチル化し、AktによるBADのリン酸化を直接阻害することを明らかにした。さらに、このアルギニンメチル化によるリン酸化の抑制がBADのミトコンドリア局在とアポトーシス誘導能に重要であることを示した。以上、本研究によりアルギニンメチル化によるBADの新規制御機構を明らかにし、さらに、Aktコンセンサス配列内のアルギニンメチル化がAktによるリン酸化を阻害するという、新たなAktシグナル伝達制御機構を示した。
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