研究概要 |
アテローム動脈硬化発生のキーとなる低比重リポタンパク(LDL)の酸化を抑制する分子として,脂質の一種であり,脂溶性抗酸化物質であるカロテノイドが注目されている.in vitroレベルでの実験において,LDL酸化に際し,過酸化脂質の生成よりも早い段階でカロテノイド類の顕著な減少が認められることが明らかになったことから,カロテノイドの代謝変動がLDL酸化のバイオマーカーとなりうることが示唆された.しかし,ヒトはカロテノイドを生合成できず,血中カロテノイド濃度は食餌の影響を大きく受けるため,カロテノイドの血中濃度を診断指標とするのは困難である.カロテノイドの酸化物であるカロテノイドエポキシドは,酸化ストレスの存在の直接的な証拠となり,鋭敏なLDL酸化マーカーとなりうるだけでなく,カロテノイド本体にはない生理作用を持ち,アテローム動脈硬化における動態の解明が望まれている.しかしカロテノイドは脂溶性が高く,構造類縁体が多数存在するためクロマトグラフィーによる迅速な分離が難しく,また,微量成分も存在するため従来法による分析が困難であった.そこで,超臨界流体クロマトグラフィータンデム質量分析を用いたカロテノイドおよびカロテノイドエポキシドの一斉分析系の構築を試みた.各種分析条件を検討したところ,20分以内にヒトの主要なカロテノイドおよびそのエポキシ体を分析できることが分かった.検出感度を検証したところ,0.1fmol程度と高感度であり,わずか0.1mlの血清から,微量成分であるカロテノイドエポキシドを検出できることが分かった.迅速であり,なおかつ少量のサンプルからカロテノイド類の詳細なプロファイルを獲得できる本分析系は,臨床検体分析において必要とされる多検体一斉微量分析の要件を満たしており,アテローム性動脈硬化を起因とする虚血性心疾患や脳血管障害のバイオマーカー発見に有用な知見の獲得が期待される.
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