研究概要 |
本研究は、合成的手法の使用を最小限に抑え、性質の異なる2種類の構成分子を組み合わせることにより、固体状態で使用でき、「色(吸収及び発光)」による分子認識特性を有する機能性超分子ホストシステムの開発を目的としている。 分子認識特性を有する超分子化合物の開発に当たり、軸不斉ビナフチル化合物に着目し、分子構造の変化による光学特性の変化について検討を行った。軸不斉ビナフチル化合物の分子構造内の二面体格を制御する目的で、2,2'-位を、長さの異なる置換基で結合したビナフチル架橋体である、リン酸架橋型ビナフチル化合物(R)-1,1'-binaphthyl-2,2'-diyl hydrogen phosphate及び、クラウンエーテル架橋型ビナフチル化合物(R)-2,2'-binaphthyl-4-crown-4、(R)-2,2'-binaphthyl-17,crown-5を用い、溶液中での光学特性について検討した。光学特性として、円偏光二色性(CD)スペクトル及び円偏光発光(CPL)スペクトルを測定した結果、それぞれCDのg-因子が約+1.6×10^<-3>,-6.9×10^<-5>,-1.5×10^<-4>、CPLのg-因子が約+2.1×10^<-3>,-2.3×10^<-4>,-4.1×10^<-4>と、同じ絶対配置を有する軸不斉ビナフチル化合物を用いているにも関わらず、リン酸架橋型とクラウンエーテル架橋型では、CD及びCPLの符号が反転する事を見出した。これら反転について検討するため、架橋部位を単純化したビナフチル化合物(R)-2,2'-dimethoxy-1,1'-binaphthylでCDの理論値をTD-DFT計算により二面体角-50°--120°の間で行った結果、二面体角が約-85°を境界にCDの符号が反転する事が明らかになり、CD及びCPLの符号の反転は、架橋部位の違いに起因した二面体角の違いに起因していると考えられる。 (R)-1,1'-binaphthyl-2,2'-diyl hydrogen phosphate及び(R)-2,2'-binaphthyl-14-crown-4の安定化構造を算出したところ、約-480と約-74°、-96°、-103°と角度が異なっており、同じ絶対配置の軸不斉ビナフチル化合物を用いても、二面体角を制御する事により、CD及びCPLの符号を制御できる事を見出した。
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