研究概要 |
○宇宙理論における対称性の研究 本研究では、原始宇宙の対称性が従来考えられているものよりも低い可能性をとりあげ、その現象論的意義を考察するものである。が、物理学において対称性と、その変遷は、それそのものが本質的な問題である。例えば、現在通説となっている、素粒子標準模型は、U(1)*SU(2)*SU(3)という対称性に基づいている。高エネルギーでは、このような対称性を有するが、低エネルギーではHiggs効果により、U(1)*SU(2)は、U(1)_<EM>に破れている。この機構に関連するHiggs粒子のCERNでの発見も記憶に新しい。そこで、宇宙論における対称性の問題に対してもこの様な見地から考察し、理解を深めた。具体的には、従来の一般相対性理論に基づくFriedmann-Lemaitre宇宙ではなく、一般相対性理論の前提とする等価原理の示唆するローレンツ対称群SO(1,3)を更に大きな対称性である、一般線形群GL(4,R)に拡張した重力理論の下で、初期宇宙の進化を考察することを目指し、関係各理論に対し、理解を深めた。 ○非等方インフレーションにおける原始揺らぎの性質の研究 本研究では、前年度までに構成した、空間的な非等方膨張を特徴とする"非等方インフレーション一様背景宇宙モデル"に基づき、摂動を線形の次数で考慮することによって、原始揺らぎに反映される統計的非等方性の評価を行った。 非等方宇宙においては従来の等方宇宙の場合と異なり、重力波と密度揺らぎの力学的自由度が線形次で相互作用をするため、これを適切に扱わなければならず、一般には従来の手法をそのまま適用することが出来ない。しかし本研究では、時刻一定超曲面の与え方を超曲面の3次元的な曲率が零になるようにとることにより、従来の等方モデルに準じた摂動の取り扱いが可能であることを発見した。 この手法により、本非等方インフレーション理論が従来考えられてきた(1)密度ゆらぎパワースペクトルの方向依存性の他、(2)重力波パワースペクトルの方向依存性、(3)密度揺らぎと重力波との相関、(4)重力波の直線偏極、といった従来顧みられることのなかった統計的非等方性の特徴を予言することが明らかになった。
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