研究概要 |
1.銅触媒を用いた,アリールボロン酸の酸化的炭素―炭素,炭素―酸素,炭素―窒素結合形成反応 昨年度に,鉄錯体とt-BuOOt-Bu(2当量)をそれぞれ触媒および酸化剤として用いると,様々なアリールボロン酸と芳香族化合物がカップリングすることを報告していた.また種々の実験より,鉄触媒との反応によるt-BuOOt-Buからのt-BuO・の生成と,それに続くt-BuO・とアリールボロン酸の反応によるアリールラジカルの生成を含む機構で反応が進行することを明らかにしていた. そこでアリールラジカルの高い反応性を利用すれば,芳香族化合物だけでなくアルケンの炭素―水素結合を炭素―炭素結合に変換できると考え,実際に,鉄触媒の代わりに銅触媒を用いることでアルケンにアリールラジカルを付加させることに成功した.またその付加生成物を脱離反応にかけることで,反応全体としてアルケンの炭素―水素結合を炭素―炭素結合へと変る溝呂木-Heckタイプの反応を進行させることに成功した.また,同様の反応条件を用いることでアリールボロン酸がアルケンとだけではなくイミンと反応して炭素―窒素結合を形成すること、アリールボロン酸と酸化剤が反応して炭素―酸素結合を形成することを見つけた. 2.遷移金属触媒を用いないハロゲン化アリールとアリールGrignard反応剤のクロスカップリング反応 豊富に存在し安価である鉄を触媒とする脱水素カップリング反応の開発を目指していたが,より安価に実行できる反応として昨年度,遷移金属触媒を用いなくても進行するハロゲン化アリールとアリールGrignard反応剤のクロスカップリング反応を見いだしていた.当初はハロゲン化アリール由来のアリールラジカルが生じるSRNl機構で反応が進行すると考えていたが,種々の検討により,ハロゲン化アリール由来のアリールラジカルが生じることなく反応が進行していることを明らかにした. また,反応条件を改善することでこれまで進行しなかった臭化アリールでも反応を進行させることに成功したほか,アリールGrignard反応剤の代わりにアリール亜鉛反応剤が利用できることを見いだした.
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