研究概要 |
ゲノムが等しい細胞集団における個々の細胞の状態性を探る手段として、細胞内のトランスクリプトーム(全mRNA)、プロテオーム(全タンパク質)の発現量を定量化する技術が近年注目を集めている。研究代表者は昨年、単一の生きた細胞におけるトランスクリプトームとプロテオームの発現量を、1分子レベルの超高感度で、網羅的に定量化する技術を開発することに、世界で初めて成功した(Taniguchi et al.,Science,2010)。当該年度では、開発技術を用いて、大腸菌のパーシスター現象のメカニズムを検証した。 抗生物質を細菌群に投与した時、ごくわずかな割合(1,000~1,000,000個のうち1個)で、長時間置いても生存し続ける菌個体が存在する。この生き残りの細胞がパーシスターである。これらの菌個体は、通常個体とゲノムが等しいことが示されており、何らかの表現型の違いが影響していると考えられているがが、そのメカニズムは明らかとなっていない。本研究では、このパーシスターに対して1分子・1細胞レベルでのプロテオーム解析を行うことにより、パーシスター表現型形成のメカニズムを明らかにすることを目指した。 これを実現するために研究代表者は、パーシスターに対して1分子顕微鏡観察を適用するためのマイクロ流体チップを開発した。このマイクロチップは、(1)1,000個以上の大腸菌を一層に並べて培養でき、(2)パーシスターを発生させるための培地交換を行うための機構を備えており、(3)複数のライブラリに対して並列に培養を行えるという特性を持っている。このため、パーシスター形成過程における複数の遺伝子発現を、同時に1分子レベルで観測することが可能となる。 開発したマイクロ流体チップを用いて、現在、約50種類の遺伝子に対しての解析を終了した。今後はさらに約1,000種類の遺伝子に対して解析を進めていく予定である。解析データは近日公開される予定である。
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