研究概要 |
当該年度は,多地点に配置されたロボットアームや力覚提示デバイスを計算機ネットワークで接続し,相互に位置と力の情報をやり取りすることのできるマルチラテラル・テレオペレーションシステムについて,実機を用いた実験システムの構築および前年度に提案した制御手法の検証を行った. 前年度は,マルチラテラル制御の定式化を行い,提案手法が安定であることを検証したが,実験に使用した通信遅延およびデバイスの一部にシミュレータを用いており,複数の実機を実際のネットワークで接続した時の制御系の安定性や追従性の検証はなされていなかった.当該年度は,制御ソフトウェアを力覚提示装置Falconに対応させ,前年度用いていたPHANTOMと合わせて3台の実機を用いた実験システムを構築した. 構築した実験システムを用いて,遠隔ショッピングで複数人に触覚情報を同時に提示する場面を模擬した被験者実験を行った.実験では,被験者はランダムに提示される対象物を遠隔で触り,その対象物の大きさを回答する.実験の結果,本システムを使用して10mm程度の大きさの違いを判別することが可能であった. 前年度に,通信遅れ時間の変動によって発生するマスタ・スレーブ間の位置ドリフトを補償する制御手法を構築したが,提案手法と他の手法との比較は行われていなかった.当該年度は,位置ドリフト補償器の周波数特性を解析することで補償制御を比較する方法を検討し,単純な位置フィードバックでは受動性が損なわれること,提案手法の制御則の一部を省略して通信データを一時的に削減できることを示した.また,実機実験により,従来の単純な位置フィードバック則では位置ドリフトは補償されるものの環境中の物体形状を適切に提示できないことを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では,マウスなどの廉価なデバイスを用いたシステムの構築を行う予定であったが,マルチユーザ・テレオペレーションシステムがどのような用途で役に立つか,その用途でシステムを用いる場合どのような制御手法・制御性能が求められるかといった,システム開発に先立って検討すべき事項が生じた.そのため,評価実験など当初計画されていなかったものの必要性の高い研究を優先して行った.そのため,廉価なデバイスを用いたテレオペレーション制御については計画よりも遅れが生じている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,ビデオ通話ソフトのような簡単な操作で誰もが使えるテレオペレーション用ソフトウェアの開発を進める予定である. このようなソフトウェアには,高い安全性が要求されるため,従来のように理論上の安定性を保証するだけでは不十分である.今後は,遠隔で非常停止ができるようなソフトウェアやシステムの異常を自動検出するアルゴリズムの開発が求められる.また,力覚提示デバイスとしてはNovint Falconのような廉価なデバイスが販売されているが,作業用のロボットアームに関しては,誰もが簡単に遠隔操作できるものはまだ存在していないと言える.今後は,廉価かつ力制御が可能なロボットアームの開発も必要であると考えられる.
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