研究概要 |
本研究で着目しているEuMO3(M=Ti,Zr,Hf)の電子構造と磁性の関係について、第一原理計算を用いて調査した結果、Eu 4fスピンに働くM nd状態(それぞれMTi,Zr,Hf,n=3,4,5)を介した反強磁性的超交換相互作用がMO6八面体の回転に伴い強くなるという新奇なスピン―格子相互作用の存在を明らかにした。具体的な結果を以下に示す. 計算は、HSEO6ハイブリッド汎関数を用いて、平面波基底PAW法(VASP code)により行った。立方晶EuZrO3において、考慮した格子体積の範囲では第一近接相互作用J1は正の値(強磁性的)を示し、磁気基底状態は強磁性である。一方で、斜方晶EuZrO3においては、Jlは負の値(反強磁性的)を示し、磁気基底状態は反強磁性である。この結果は、立方晶EuZrO3ではEu 5d状態を介したEu 4fスピン間の間接強磁性的相互作用が支配的であるが、斜方晶EuZrO3においてはZr4d状態を介した反強磁性的超交換相互作用が支配的であることを示唆している.3次の摂動論によると、この超交換相互作用はJ∝σdf4/△E2と表現される。立方晶および斜方晶EuZrO3の電子状態密度を調べた結果、△Eはほとんど変わらないことがわかった。 そこでσdfの格子依存性を調べるために、立方晶および斜方晶EuZrO3のEu 4fバンドの電荷密度を調べた。Eu原子周りだけでなくZrおよびO原子周りにも電荷密度が現れることから、Eu 4f状態はZr 4dおよびO 2p状態と相互作用していることがわかった。Zr 4d状態に注目すると、立方晶EuZrO3ではZr原子周りに電荷密度が観察できないが、斜方晶EuZrO3ではZr 4d軌道がEu原子に向かって広がっていることがわかった。この結果は、斜方晶EuZrO3ではZrO6八面体の回転により、Zr 4d軌道がEu原子の方に向けられるためにσdfが大きくなり、Eu 4f状態とZr 4d状態の相互作用が強くなることを示唆している。
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