本研究の目的は、「シアノ錯体界面を通じての電圧誘起物質移動とそれを用いた新機能の開拓」の研究分野を開拓することである。平成23年度は、平成22年度に引き続き、電圧誘起物質移動の機構解明の手掛かりを得るために、下記の内容について測定を行った。1.まず、シアノ錯体接合素子の接触抵抗成分を差し引くために、Na_xCo[Fe(CN)_6]_<0.90>・2.9H_2O(NCF90)、Na_xNi[Fe(CN)_6]_<0.68>・5.1H_2O(NNF68)の二種類の薄膜について、バルク抵抗率の膜厚依存性を測定し、ITO電極とシアノ錯体薄膜の接触抵抗を決定した。2.次に、シアノ錯体接合素子の複素インピーダンスの周波数特性を測定し、この素子は、RC等価回路で再現できることを見出した。3.これまでの研究では、素子に流れる電流応答を通じて、間接的に物質移動を計測しており、より直接的に物質移動を計測するため、NCF90膜とNNF68膜を接合した素子において、電子移動と物質移動のダイナミクスの温度依存性について同時測定を行った。その結果、温度上昇に伴い、電流応答、物質移動の応答ともに速くなり、また、物質移動量が増加することが明らかとなった。4.また、これまでの研究により、接合界面において水分子層が形成されることが示唆されていたが、この水分子層の役割を明らかにするために、(1)大気中で作成された素子と(2)乾燥下で作成された素子、の電子移動ダイナミクスと物質移動ダイナミクスを測定し、比較した。その結果、乾燥下で作成した素子は抵抗体となることがわかった。このことから、この素子の界面間の物質移動には、電子絶縁層としての水分子層が重要であることが示唆された。
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