研究概要 |
当該年度においては、まず、GWASにおいて日本人の前立腺癌罹患との関連が確認された16の単塩基多型を用いて日本人の前立腺癌患者689人、対照群749人の情報を基にロジスティック回帰分析による罹患リスクモデルを構築した。次に、モデルの再現性を全く独立した2つの日本人サンプル(前立腺癌患者3,294人、対照群6,281人)を用いて確認した。その結果、リスクモデルを構築したサンプル群におけるモデルの曲線下面積(AUC)は0.679、再現性評価に用いた2群におけるAUCは0.655,0.661であり、高い再現性が確認された。さらに、カルフォルニアおよびハワイに在住する日系人サンプルにおいても高い再現性が認められた。次に、罹患リスクモデルとPSAの関連の有無について検討した。PSA1-10ng/mlのサンプルに限定した場合においてもAUCはほぼ同等であり、リスクスコアとPSAの間にも相関は認められず、リスクモデルがPSAとは独立した指標であることが確認された。最後に、PSAグレーゾーンにおいて罹患リスクモデルを適用した場合の検査後確率についてシミュレーションを行い、罹患リスクモデルの臨床における有用性について検討した。リスクモデルによって24.2%のサンプルが低リスク(オッズ<0.5)、9.7%のサンプルが高リスク(オッズ>2.0)と分類された。PSAグレーゾーンにおける前立腺癌診断率を20%と想定した場合にリスクモデルを適用すると低リスク、高リスク群における検査後確率はそれぞれ10.7%,42.4%であり、臨床において有用な指標になる可能性が示唆された。 本研究において単塩基多型に基づく前立腺癌罹患リスクモデルは高い再現性を示し、PSAと完全に独立した指標であった。PSAグレーゾーンにおいて適用することで、高リスク群は即時前立腺生検、低リスク群はPSA経過観察するといった臨床判断に影響を与えうる指標であることが確認された。今後、実臨床現場においての精度、再現性、有用性の確認が待たれる。
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