フェロモンとは、同種間で社会行動や生殖行動に影響を与える物質である。フェロモンの重要な働きとして、同種の別個体を正確に認識する役割がある。個体認識の仕組みを理解する上で、受容体がどのようにしてフェロモンを厳密に認識するかを理解することは重要であるが、精密なリガンド識別メカニズムについての知見は十分でない。共同研究者である東原らは、オスマウスの涙より分泌される新規ペプチドESP1を同定し、38種類からなる新規の多重遺伝子ファミリー(ESPファミリー)の存在を明らかにした。ESP4は、外分泌腺のうち、眼窩外涙腺、顎下腺、ハーダー腺に分泌されており、ESP1とのアミノ酸配列の相同性が高い。我々は、ESP4がESP1と異なる受容体で認識されることを示唆する結果を得ている。本研究は、ESP4の立体構造および受容体認識機構を解明し、構造生物学の観点から、受容体の厳密なリガンド識別機構を明らかにすることを目的とする。 24年度はESP4受容体が存在すると考えられる膜環境に着目した。生体膜を模した膜環境を形成する化合物存在下でのESP4のNMR解析を行い、擬似的膜環境下におけるESP4の立体構造を解析した。また、ESP4と膜模倣化合物との相互作用部位についての解析も行なった。解析の結果、ESP4はヘリックスに富む立体構造をもつことを明らかにし、また膜との相互作用を示唆する成果を得た。
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