塩味の嗜好行動にはアンギオテンシンIIが重要な役割を果たしており、ラットでは血中アンギオテンシンIIの増加、その結果としてのアルドステロンの増加により、通常忌避する高張Na溶液の増加が、飲水量の増加に伴い起こることが知られている。本研究では、塩味嗜好性に関して、過去の研究で報告されているアルドステロンなどのホルモンによる味覚修飾効果であるNa応答増大がいずれも数時間で最大になるような時間オーダーのゆるやかなものであったことに疑問を抱き、より速い効果をもたらす可能性のあるアンギオテンシンIIに着目し、アンギオテンシンIIの末梢味細胞における修飾効果の解明を目的として、分子、電気生理学的解析を行った。初年度の研究の結果、RTPCRで正常系マウスの茸状乳頭ならびに有郭乳頭において、アンギオテンシン受容体であるAT1ならびにAT2のmRNAの発現が認められた。また、マウスの腹腔内にアンギオテンシンIIを投与すると、投与後10-30分に鼓索神経の塩味応答が減少し、甘味応答が増大することが明らかとなった。そこで本年度の研究において、AT1とAT2受容体のブロッカー投与後の鼓索神経応答解析を行ったところ、AT1受容体ブロッカー投与により塩味応答減少、甘味応答増大というアンギオテンシンIIの効果が消失した。一方、AT2受容体ブロッカー投与後は鼓索神経応答の変化がなかった。免疫組織化学法により、AT1はENaCαもしくはT1r3(甘味受容体構成分子)と一部共発現していることが確認された。以上の結果より、アンギオテンシンIIは30分以内で効果が最大になるようなきわめて短い時間オーダーで味細胞に作用し、AT1を介して塩味と甘味の感受性を逆相関で変化させ、Na、糖分、水分摂取を効率的に調節している可能性が示唆された。
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