研究概要 |
本年度は,次の2つのテーマについて研究を遂行した. (1)スピン軌道相互作用するフェルミ超流動体におけるトポロジカル相とマヨラナ状態 スピン軌道相互作用するフェルミ超流動状態は,ゼーマン磁場を印加することによって,非トポロジカル相から,マヨラナゼロエネルギー状態を内在するトポロジカル相へ相転移する.この相では,量子渦が非可換統計性に従うことが知られており,量子計算への応用の可能性などの観点から注目されている.一方,この相転移は.フェルミ面が2枚の状態から1枚の状態への転移に相当する.そこで本研究では,相転移近傍のマヨラナ状態の振る舞いに着目し,Bogohubov-de Gennes方程式の数値解析プログラムの開発およびそれを用いた解析を行った.その結果,トポロジカル相転移近傍では,2つのフェルミ面に起因する2つの長さスケールが共存する状態を経るという相転移メカニズムを明らかにした.本研究の成果は,日本物理学会2012年秋季大会にて発表した. (2)超流動3He-B相の渦芯に束縛された準粒子状態 超流動3He-B相はトポロジカル超流動相として知られている.そのため,超流動相と真空が界面を形成する場合や,渦芯で超流動秩序変数が消失する場合,界面や渦芯にマヨラナ状態を束縛する.一方,3He-B相における渦は,その他の超流動相によって埋められることが知られており,その励起状態は自明でない.本研究では,数値計算に基づいて,3He-B相で実現しうる様々な量子渦に束縛される準粒子状態を解析した.さらに,得られた結果は,渦芯を埋める超流動相とバルクの超流動3He-B相との界面におけるAndreev束縛状態として理解することができることを明らかにした.本研究の成果は,日本物理学会第68回年次大会で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は超流動^3He-B相やスピン軌道相互作用する中性冷却原子気体の超流動相における準粒子状態の解析を行った.当初の計画書に記載した^3He-A相の渦におけるマヨラナ準粒子および,その非可換統計性だけでなく,その周辺の系における準粒子状態に関して研究を遂行することで,当初予定していたよりも多くの知見を明らかにすることができた.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で明らかになった^3He-B相における渦状態が,磁場等の外場の下でどのような影響を受けるかを明らかにし,本年度の結果を含めて本論文にまとめ,出版することを計画している.また近年では,UP_<t3>の超伝導相において,^3He-Bに類似する超伝導状態,および量子渦状態が実現することが指摘されている.そこで,本年度までの研究における知見を活かし,その状態の低エネルギー状態を解析する.また,トポロジカル絶縁体や,磁性体と超伝導体との近接効果の系においても,マヨラナ準粒子状態が束縛されることが知られており,本年度までに開発して来た数値解析プログラムを用いてこれらの系に対する解析も行う.
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