前年度までの研究で、エンドセリンシグナル欠損モデルマウスにおいて冠動脈での神経堤細胞の分布に異常が生じることが明らかとなり、平成24年度の研究では、冠動脈に寄与する神経堤細胞の領域を詳細に検討するため、ウズラ-ニワトリキメラ胚を用いた移植実験を行った。まず心臓神経堤細胞と呼ばれる、耳胞より尾側の後耳胞神経堤細胞を移植した所、大血管には多量にウズラ由来の神経堤細胞が寄与する一方で、冠動脈平滑筋細胞には寄与していないことが確認された。そこで我々は、これまで心臓に寄与するとの報告がなかった、耳胞より頭側に位置する前耳胞神経堤細胞を移植した所、冠動脈の中隔付近に特徴的に神経堤細胞が寄与することが明らかとなった。更にこれらの鳥類胚で得られた知見をマウスでも確認するため、R4-Creと呼ばれる、前耳胞神経堤細胞の一部を特異的に系譜することの可能なマウスを用いて心臓内での分布を検討した結果、鳥類胚と同様にR4-Cre由来の細胞が冠動脈中膜領域に寄与していることが確認された。以上の結果より、前耳胞神経堤細胞が冠動脈平滑筋細胞に寄与することが明らかとなった。最後にわれわれは、前耳胞神経堤細胞の機能的な重要性を明らかにするため、鳥類胚をもちいて前耳胞神経堤細胞を切除する、機械的焼灼モデルでの冠動脈形態の検討を行った。その結果、焼灼術を施した一部の鳥類胚において、中隔枝の局所的な拡張を認めた。同様の形態異常はエンドセリン受容体拮抗薬を投与した鳥類胚でも確認され、一連の実験により、(1)前耳胞神経堤細胞が中隔領域を中心とした心臓内に寄与すること、冠動脈平滑筋細胞に寄与すること、(2)心臓に寄与する前耳胞神経堤細胞の一部が冠動脈平滑筋細胞に寄与すること、(3)前耳胞神経堤細胞が正常な冠動脈の形成に重要であること、そして(4)エンドセリンシグナルが、神経堤細胞を介した冠動脈形成に関与していることが明らかとなった。
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