研究概要 |
就眠運動の分子機構解明を目指し,モデル植物であるアメリカネムノキの就眠運動を制御する内因生理活性物質β-グルコピラノシル-12-ヒドロキシジャスモン酸カリウムを基盤とした分子プローブを設計・合成し,その標的タンパク質MTGJの効率的標識化および精製を目指し研究を行ってきた.前年度までに,リンカー構造にトリアゾール-フェニル(TAzP)型ビアリール構造を含む分子プローブを開発し、これが従来用いてきた分子プローブと比較して約20倍もの標的タンパク質標識化効率を示すことを見出した.これは,ビアリール構造に起因する剛直なリンカーが、嵩高い分子タグをファーマコフォアから空間的に引き離すことで,分子プローブ-標的タンパク質間相互作用が強まったことが原因であると考察した。本年度はこの知見を活かし、リンカーの分子構造と分子プローブの性能の相関を明らかにし,さらなる高性能分子プローブの開発の開発を目指すこととした.リンカー部位の剛直性を比較するコントロールとして,トリアゾール基とフェニル基を炭化水素鎖(C2H4)で連結した分子プローブ,および分子プローブに広く用いられるオリゴエチレングリコールリンカーを導入した分子プローブをそれぞれ合成した,また,剛直性を保ち,更に平面性と分子全体の極性を高めたトリアゾール-キノリン(TAzQ)構造を有する分子プローブを合成し,これらとTAzP型プローブとMTGJ標識化効率を比較した.その結果,合成した各種プローブはTAzP型プローブに比べ標識化効率が著しく低下した.炭化水素鎖を挿入したプローブ,およびオリゴエチレングリコールを導入したプローブとの比較結果から,TAzP型分子プローブの高い標識化性能は,リンカー部位の剛直性が大きく寄与していることが示唆された.また同じビアリール構造を有するTAzQ型プローブがほとんど標識化性能を示さなかったことに関しては,分子プローブの水溶性の違いによる物と考察した.TAzQ型はTAzP型に比べClogP法および逆相HPLCの保持時間から極性は高いものの、その飽和濃度はTAzP型の4分の1程度であった.橋本らは,分子の平面性や対称性を崩すことで分子の水溶性が向上することを報告している.そこで,DFT計算を用いたコンフォメーション解析を行い,TAzP型とTAzQ型のビアリール結合の二面角を調べたところ,TAzP型はややねじれた構造を取っているのに対し,TAzQ型は平面性を保った構造を有することが明らかになった.このような最安定構造の違いから二つのプローブは水溶液中で異なる状態を取り,結果として標識化効率に差が現れたものと推測された.以上の結果から,申請者が開発したTAzPリンカーは簡便に合成可能かつ高い標識化性能を付与することができる優れたリンカーであることが示唆された.
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