研究概要 |
海洋天然物pectenotoxin-2(PTX-2)は、Fアクチン脱重合作用により強力な抗腫瘍活性を示すことが知られている。ヒト癌細胞の約半数で癌抑制遺伝子p53の変異や欠失が認められることが知られているが、PTX-2はそのような腫瘍細胞に選択毒性を有することが明らかとなっており、新規抗癌剤のリード化合物として近年注目を集めている。我々はPTX-2の構造活性相関に基づく新規抗癌剤の創成を目指し、その全合成を計画した。本年度はPTX-2の重要なユニットの1つで、4つの環状エーテルから構成されるCDEF環フラグメントの収束的合成法の開発を行った。CDEF環はpectenotoxin類に共通の構造で、活性発現に必須であると考えられていることから、その合成法の確立は最も重要な課題の一つであるといえる。当研究室では以前に、Evansアルドール反応を用いたCDEF環フラグメント合成を開発したが、本合成ルートは全合成の後半で不斉補助基の除去と後の化学変換に工程数を要するため、改善の余地を残していた。そこで合成の効率化を計り、新たな収束的合成ルートの開発を行った。結果、ビニルヨージドを有する1,4-ジエンを合成し、DEF環ユニットを含むアルデヒドとの不斉Nozaki-Hiyama-Kishi反応と、続くSharpless不斉エポキシ化-分子内環化ワンポット反応により、CDEF環を高立体選択的に構築することに成功した。本法は以前のEvansアルドール反応を用いた手法と比べ、環形成後の化学変換が容易かつ短工程となる。さらに、Sharpless不斉エポキシ化反応の際用いるキラルリガンドを変えることで2,5-cis、2,5-trans三置換THFを立体選択的に作り分けることができるため、種々の2,3,5-三置換THF合成にも応用苛能であることが明らかとなった。
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