研究概要 |
我々は、最近ファンコニ貧血遺伝子FANCIが、放射線などによるDNA損傷ないし複製ストレスを受けた細胞においてリン酸化され、モノユビキチン化された後すみやかに脱リン酸化されることを見いだした。FANCIリン酸化はFANCD2のモノユビキチン化の分子スイッチであり、その脱リン酸化は、ファンコニ貧血経路によるDNA損傷チェックポイントとDNA修復を制御する重要なイベントと考えられる。本研究においては、FA経路活性化に関わる脱リン酸化酵素の分子種を同定し、その脱リン酸化の制御がどのように行われているか、明らかにする。もしFANCI脱リン酸化酵素の抑制剤が開発できれば、FANCIをリン酸化誘導しFA患者、家族性乳がん患者においてもFA経路の活性化ができる可能性がある。 平成22年度の研究内容として、FANCI脱リン酸化酵素の同定を行った。スクリーニングを行う上で、まず従来DNA損傷応答に関与するとされている4種の脱リン酸化酵素の遺伝子(wip1, PP4c, PP2Acα, PP2Acβ)にてヒト細胞株でsiRNAによるノックダウンを行い、DNA損傷処理後、FANCD2モノユビキチン化に対する効果を検証した。明確にFANCD2モノユビキチン化を増強させる効果は得られず、さらに広範囲な検討が必要と考え30種類を超えるsiRNAによるヒトのセリン/スレオニン脱リン酸化酵素等をカバーしてスクリーニングをおこなった。各脱リン酸化酵素のノックダウンの効果は、FANCD2モノユビキチン化でのウェスタンにより検討した。FANCD2モノユビキチン化を増強させる効果は得られたのは、ILKAPとPSPHであった。面白いことに、PP2Aのcatalytic subunitα型(PP2ACα)のノックダウンにより、FANCD2モノユビキチン化がはっきりと抑制された。さらにPP2Aのregulatory subunitであるとPPP2R5D (PP2A/B56δ)のノックダウンにても同様にFANCD2モノユビキチン化がはっきりと抑制されていた。今後これらの脱リン酸化酵素がいかにFA経路を制御するのか、そのターゲットを同定する必要がある。 また、候補のFANCIの脱リン酸化酵素遺伝子(PP4CR3β、Wip1、PP2Cγ)について、ニワトリB細胞株DT40細胞を用いてノックアウト細胞を作製し、表現型を検討した。放射線感受性、マイトマイシンC刺激によるFANCD2モノユビキチン化に対する効果を検証したが、明らかな放射線感受性は認めず、明確にFANCD2モノユビキチン化を増強させる効果は得られなかった。
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