研究課題
特別研究員奨励費
上皮間葉転換(EMT)は上皮細胞が上皮系性質を失い、間葉系細胞の特性を獲得する現象であり、転移能や薬剤抵抗性など癌細胞の悪性形質に関与していることが明らかになってきた。すなわち、癌細胞におけるEMT誘導を阻害する薬剤の開発が必要である。現在、改変アデノウイルスを用いた抗癌治療の開発が進められているが、アデノウイルスとEMTプログラムの関係性についてはほとんど調べられていない。本研究では、テロメラーゼ依存性腫瘍融解アデノウイルス(OBP-301)を使用して、アデノウイルス製剤が癌細胞のEMTに与える影響を明らかにすることを目的とする。昨年度に実施した研究により、ヒト肺癌A549細胞において、OBP-301はTGF-β誘導性のEMTおよび細胞浸潤を阻害することが明らかになった。本年度は、他の癌細胞でも同様の現象が観察されるかどうかを検討するとともに、分子機構の解析を行った。ヒト膵臓癌Panc-1細胞においても、OBP-301はTGF-β処理により誘導される間葉系マーカー(ビメンチン、N-カドヘリン)およびEMT誘導転写因子(Snail、Slug)の発現を有意に減少させた。さらに、OBP-301はTGF-βによって亢進されるPanc-1細胞の運動能と浸潤能を抑制し、化学療法剤に抵抗性を示すTGF-β処理Panc-1細胞に対しても抗腫瘍効果を示した。OBP-301に加え、野生型や非増殖能型アデノウイルスを用いてEMT関連マーカーの発現変化を解析したところ、このEMT阻害作用には、アデノウイルス由来のE1Aタンパク質が重要であることが明らかになった。本研究より、テロメラーゼ特異的腫瘍融解アデノウイルスOBP-301はTGF-β誘導性のEMTや細胞浸潤を阻害し、EMTにより悪性形質を獲得した癌細胞に対しても有用であることが示唆された。
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