研究概要 |
前年度まで、マンガン触媒を用いるβ-ケトエステルなどの1,3-ジカルボニル化合物とアルキンの新規反応を見いだしてきた。平成23年度は、種々のマンガン、鉄錯体を触媒に用いて1,3-ジカルボニル化合物とは異なるタイプの基質での反応を探索した。その結果、研究の目的であるマンガンおよび鉄触媒の新規反応ではないが、マンガンと同族のレニウム触媒を用いる原子効率の高い新規な反応を見いだした。 1.レニウム触媒による炭素-炭素単結合へのアルキンの挿入によるδ-ケトスルホンの合成 触媒量のレニウムデカカルボニル錯体存在下、β-ケトスルホンと末端アルキンをトルエン溶媒中135℃で反応させると、β,γ-不飽和δ-ケトスルホンが得られた。本反応では、一般に不活性である炭素-炭素単結合の切断、およびアルキンの挿入反応が進行した。また本反応は挿入反応であり廃棄物のない原子効率の高い反応である。さらに、以前われわれの研究室で報告したレニウム触媒によるβ-ケトエステルの炭素-炭素単結合へのアルキンの挿入反応では、生成物はオレフィンの位置および立体異性体の混合物として得られたのに対し、本反応では異性体の生成なしに単一の生成物が得られた。これらの点から本反応は興味深いと考え論文として報告した(Org.Lett.2011,13.2959)。 2.レニウム触媒を用いるβ-ケトスルフィドの炭素-硫黄結合の切断とアルキンの挿入反応 活性メチレン化合物とは異なるタイプの基質をアルキンと反応させることで、マンガンやレニウム触媒の新たな反応性が見いだせるのではないかと考え、β-ケトスルフィドの反応を検討した。マンガン触媒存在下、低収率ながらβ-ケトスルフィドの炭素-硫黄結合へアルキンが挿入しその後オレフィン部位が異性化した生成物が得られた。触媒をレニウム錯体にかえたところほぼ定量的に反応が進行した。これまでに炭素-硫黄結合へのアルキンの挿入反応はいくつか報告されているが、本反応のようなケトンのα位炭素-硫黄結合にアルキンが挿入した例はこれまでにない。また本反応は位置および立体選択的に進行し、単一の生成物が得られることから有用であると考え、学会にて発表した(日本化学会第92春季年会,2L2-38)
|