研究概要 |
本研究では、核内における糖修飾が関与する新しいタンパク質機能制御を明らかにすることが目的である。そこで2年目は、以下の2点に関して研究を実施した。 昨年度に引き続き、クロマチン上における糖修飾化因子の遺伝子発現上の重要性に関する研究をおこなった。生化学的手法による探索の結果、ヒストンの中でもH2Bが核内糖修飾化酵素(OGT)によって、糖修飾(O-GlcNAc化)されることが明らかになった。また、ヒストンH2BのO-GlcNAc化部位はC末端側のSer112であることが明らかになった。近年、ヒストンの修飾同士のクロストークも遺伝子発現制御に重要である事が明らかになっている。そこで、H2BS112近傍のヒストン修飾とクロストークがあるかどうかを検討した。その結果、H2BK120のユビキチン化にS112のO-GlcNAc化が影響を与えることを見出した。さらにH2BK120のユビキチン化は、転写を活性化するヒストン修飾であるH3K4のメチル化を促進することから、ヒストンのO-GlcNAc化は遺伝子発現を正に制御することが明らかになった。これらの成果は、第二著者としてNaure誌の一部として掲載された。(Fujiki R,Hashiba W,et al,Histone H2B GlcNAcylation facilitates its monoubiquitilation,Nature,2011,480,557-560) 昨年度は、O-GlcNAc化H2Bに対する認識因子(核内レクチン)の探索をおこなってきた。ペプチドプルダウンを用いた、精製の結果、HSP70を同定することができた。しかしながら、HSP70はO-GlcNAc基を認識するレクチンとして報告されているが、ヒストンを特異的に認識するモチーフはなかった。さらに様々な検討をおこなってきたが、HSP70以外の新規核内レクチンの同定には至らなかった。つまり、これまでの結果から言える事は、一般的な精製法では核内レクチンを精製することが難しいことが明らかになった。そこで、視点を変えて、グルコースで制御されるクロマチン因子群の精製を試みることにした。この方法を用いればグルコースに応答するクロマチン因子の同定が可能であり、また、核内レクチンもこの中に含まれる可能性が高い。Flagタグ付きのヒストンH2Bをベイトとし、その安定発現株を取得した。その後、グルコース有無の条件下で細胞を培養し、アフィニティ精製に供した。また、精製産物はLC-MS/MSによって網羅的に同定された。その結果、グルコース有無によって、結合が異なる因子群の同定に成功にした。
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