研究概要 |
近年,農業経営における収益性の向上や,農地から肥料成分などが河川や湖沼へと流出するノンポイント汚濁の排出源管理が課題となっている.そこで本研究では,経営的収益性と環境負荷を統合的に評価し,収益性の向上と汚濁負荷量の削減を目指した農地及び水利システム管理モデルの開発を行った. 今年度における研究実施状況をまとめると,(1)農地及び水利システム管理モデルの開発と改良(2)モデルパラメータ同定のためのデータの収集の2点である. (1)農地及び水利システム管理モデルの開発と改良 前年度に引き続き農地及び水利システム管理モデルの開発を行った.圃場一筆ごとの栽培作物を選定する決定変数を設定した混合0-1計画問題として定式化し,重み係数法を用いて多目的を設定し,経営的収益性と環境負荷を統合的に評価した.農業経営における収益性の向上目指す目的関数は,栽培作物の収量,栽培経費などの栽培管理における統計データを用いて,圃場一筆ごとの栽培作物を的確に選定するように定式化した.また,環境負荷に関する目的関数では,水路内での汚濁負荷に対する自浄作用をモデル化し,農業地域の水利システムから外部の河川や湖沼へと排出される汚濁負荷を,水路内での自浄作用により効率的に削減するように定式化した. 開発したモデルを仮想の農業地域に適用し,全窒素負荷量と農業収益との間のトレードオフ関係を定量的に評価し,この結果は農地管理者にとって作付計画の際の意思決定に有用な判断材料となることを示した.これら成果は論文にとりまとめ学術誌への掲載を予定している. さらに,開発したモデルの改良を行った.複数の水質項目(硝酸態窒素,アンモニア態窒素,全リン)に関して汚濁負荷量が評価できるよう改良し,また汚濁魚荷の原単位や収益性に関する不確実性を考慮するため確率計画法によるシナリオやファジィ目標を導入し,より実用性の高い最適化モデルを構築した.最適化モデルを後述の滋賀県の農業地域に適用し,これらの成果を関連学会において発表し,論文にとりまとめ学術誌へ投稿中である. (2)モデルパラメータ同定のためのデータの収集 前年度から継続して滋賀県の農業地域において現地調査を行い,圃場からの排水や水路での採水サンプルを集め,硝酸態窒素,アンモニア態窒素,全リンなどの水質分析を行った.その結果,調査地域内における各水路での自浄係数や,圃場での作付の変化による排出される汚濁負荷量の増減が明らかとなり,これらのデータからモデルパラメータが同定された.
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