研究概要 |
本研究では金属イオン交換ゼオライトをナノ特異反応場として利用した室温で安定に存在するXe化合物の創製を目指している.銅イオン及び銀イオン交換MFI型ゼオライト(CuMFIおよびAgMFI)中で形成された一価イオン種(銀イオンの場合はクラスターイオンを含む)がXeと強く相互作用することが分かった.そのため,この金属イオンの特性を理解することは,Xe化合物形成メカニズムを明らかにするうえで重要な手掛かりとなる.今年度は,DFT計算を用いた電子状態解析を行い,ゼオライト中の金属イオンが有する特異な反応性を明らかにすることを目的として,以下の研究を行った. 1.近年,CuMFIが室温でエタンを吸着することが見出されたが,その詳細は不明であった.そこで,DFT計算を用いてエタンと相互作用するCuMFI中の銅イオンの状態を検討した.Xe-CuMFI間の相互作用においてはMFI型ゼオライトのinitersection部分にイオン交換された単核Cu^+がXeと共有結合を形成する.一方で,エタンーCuMFI系においては,MFI骨格に沿うように隣り合ってイオン交換された二つのCu^+間に架橋するようにエタン分子が吸着していることが分かった.この時,Cu^+からエタンのC-H間の反結合性軌道へ電子が移動することが分かった. 2.ZnMFIをH_2雰囲気で熱処理すると試料中のZn^<2+>が単核Zn^0に還元される.この現象について,DFT計算を用いた検討を行い,遷移状態が存在することを明らかにした.また,還元反応後に生成するZn^0はゼオライトのブレンステッド酸点とわずかに相互作用していることが分かった.これらの結果はそれぞれ,実験事実(反応に加熱が必要である,反応後に亜鉛が凝集することなく単核で存在する)と一致した. 3.IFO解析を適用して,Xe-CuMFIおよびXe-AgMFI間の電子状態について詳細な検討を行った.Xe-CuMFI間ではXe(5p)→Cu^+(4s,4p)への供与電荷移動が結合形成に大きく寄与していることが確認できた.同時に,Cu^+(4s,3d)→Xe(6s)への電荷移動もわずかに存在することが分かった.この逆供与電荷移動は,供与電荷移動によってXe→Cu(4s)に供与された電子がXe(6s)に再び戻っていることを示していると解釈した.一方で,Xe-AgMFI系においては,試料中に存在するAg_n^<m+>クラスターがXeと相互作用すると考えている.Xe-Ag_n^<m+>間では,Xe(5p)→Ag_n^<m+>(5s,5p)の供与電荷移動が主に寄与していることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度に引き続き,今年度も計算化学に力を入れて研究を行った.これまでに培ってきた計算化学の技術.知識を生かし,本課題であるに応用可能あるいは根本的な理解となりうる現象の解明(金属イオン交換ゼオライト中の金属イオンの電子状態解析等)を行うことができた.計算化学の導入により,実験のみでは理解が困難な事象を明らかにすることができたと考えている. 以上の点から,(2)おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
量子化学計算の導入によって,うまく実験事実を説明できた点がある一方で,実験結果と計算結果の整合性がとれない点もある.そのため,実験結果を改めて見直し,実験事実から得られる解釈に基づいて再度量子化学計算を行う必要がある.また,計算手法に改良を行い,Xeと金属イオン間の結合に関する真実を明らかにしたい.
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