研究課題
特別研究員奨励費
ブラックホールは自ら光を放出しない天体である。ブラックホールの質量やスピンを推定するためには、ブラックホール周りに形成される回転プラズマ(降着円盤)からの輻射を観測し、詳細な理論モデルと比較する事が必要不可欠である。しかし超臨界降着流と呼ばれるエディントン光度(球対称降着の場合の限界光度であり中心天体の質量に比例)を超える非常に明るい降着円盤の詳細な理論スペクトルは明らかになっていない。そこでブラックホール超臨界降着流の2次元輻射流体シミュレーションをすることで得られた物理量を用いてモンテカルロ法に基づく輻射スペクトル計算を実施した。その結果、ブラックホール近傍に形成される衝撃波加熱領域での逆コンプトン散乱により10keV以上まで延びる硬い冪スペクトルが形成され、また特に降着流が高いときは降着流から噴出する低温アウトフローでのコンプトン散乱により5keV付近でスペクトルに折れ曲がりが形成されることがわかった。これまで超高光度X線源では他のブラックホール候補天体では観測されない5keV付近の折れ曲がりが観測されてきた。この新しいスペクトル状態の起源は謎であったが、本研究によりブラックホール超臨界降着流・噴出流でのコンプトン散乱により新しいスペクトル状態が現れることを初めて理論的に示すことに成功した。この成果をまとめた論文はアメリカの天文学誌Astrophysical Journalに掲載が決定した(Kawashima et al. 2012)。また、カリフォルニア大学サンタバーバラ校に滞在しOmer Blaes教授との共同研究でブラックホール超臨界降着流の偏光スペクトル計算に着手した。滞在中に彼らの先行論文の、ある問題点に気づき指摘を行った。またその他に流体が高速で運動しているときの偏光状態の変化に関する計算をモンテカルロ・コードに実装する方法について議論を行い、現在コードに実装中である。さらに輻射磁気流体コードにコンプトン冷却・加熱の計算モジュールを実装し、予備的な計算を実施した。
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Astrophysical Journal
巻: Vol.752(印刷中)