2011年度の研究実績として、まず20世紀遺伝学~21世紀ゲノム学へといたる学説史のなかでのアルビノの位置づけを検討し、論文として発表した。アルビノは、20世紀初頭の遺伝学の黎明期においては表現型のわかりやすさからこぞって研究され、多数の症例報告や家系調査が蓄積された。また、基礎理論としての遺伝学を応用した優生学的実践においては、人びとを「悲嘆」させる「不幸」な遺伝性疾患の代表格として前面に押し出された。しかし、ゲノム時代に突入した21世紀には、表現型と遺伝子型の対応関係がはっきりしているアルビノが改めて注目されることはない。近代以降に医療化されることがなかったアルビノは、露骨な優生学的言説が鳴りを潜めた現在は、治療や出生予防といった身体・生殖に介入するような研究・実践から相対的に自由であることが明らかになったのである。 以上のような背景があるため、優生学的言説が影響力をもっていた戦前~戦後に生きた当事者の語りには独自の語り難さある。研究実績の2つめは、結婚を機に自らの判断によって優生手術を行ったアルビノ当事者(70代・男性)のライフストーリーを分析し、口頭報告したことである。彼が優生手術をした1970年代初頭は「不幸」な遺伝性疾患の子どもは生まれないほうがよいという考えはある種の「常識」として受け入れられていただろうが、現在から振り返って語るにあたっては、それが優生思想として批判の対象になることも彼は十分に自覚していた。そのため彼は「恵まれて育った」とくり返し、一貫して政治的なストーリーから距離をとり続けたのである。
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