研究概要 |
半導体研究において新規材料開発研究は重要である。例えば青色発光ダイオード素子開発時には主流材料であったZnSeではなく、GaNによって発明がなされた。このように新規機能性デバイスは常に新材料によってもたらされるが、その新材料の候補群として申請者はコランダム型構造酸化物半導体に着目している。コランダム構造酸化物のうち典型金属酸化物は、従来の混晶系同様にバンドギャップ値の変調が可能であるが、この混晶系にコランダム型構造をもつ遷移金属酸化物をドープもしくは混晶化する事で強磁性等の物理物性を付加できることが、この混晶系の最も大きな特徴であり、従来の混晶系に対してもつ大きなアドバンテージである。申請者はこれらのコランダム構造酸化物群を用いることで新しい混晶の作製が可能である事を示し、提案してきた。これまでの研究ではα-Ga203をベースとするスピントランジスタを作製するうえで強磁性電極となる新規強磁性体α-(Ga,Fe)203薄膜の作製に世界で初めて成功し、その結晶性はX線ロッキングカーブの半値幅が100秒以下という世界最高レベルのものであった。さらにSQUID測定によって室温において強磁性である事が示され、また断面及び平面のTEM観察、TEM-EDX分析測定によって薄膜内に磁性物の析出がない高品質混晶膜である事が分かった。これらは従来の強磁性半導体の弱点を克服するものであり、実用応用可能な磁性半導体材料の開発に成功した。また、典型金属酸化物においても半値幅が300秒以下という高い結晶性を示すα-(Al,Ga)203混晶薄膜の作製に成功し、その光学バンドギャップ値と格子長の制御に成功した。さらに、α-Ga203の結晶成長メカニズムを断面TEM観察測定等から解明し、サファイア基板上にドメインエピタキシー成長する事でらせん転位密度が10の7乗以下の高品質結晶である事を発見した。また、それらの結晶成長メカニズムを利用して、α-Fe203をバッファー層として用いる事で、これまで作製が困難であったα-In203の作製に成功した。その結晶性は半値幅が200秒以下という高品質なものであり、そしてα-(In,Ga)203混晶の作製にも成功し、バンドギャップ値の一部制御に成功した。これらの結果により、物性付加を可能とする機能性混晶であるコランダム構造酸化物の新しい可能性を見出し、またそれがスピントランジスタをはじめとする新デバイスの作製に大きく貢献する事を示した。
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